Home kakihara blog Back

     
 
July 15, 2006
『片翼の新聞2.0:産経「iza!」の挑戦』

いまや猫も杓子も「2.0」。ここ1〜2ヶ月ほどで、各種一般ビジネス誌がこぞって「Web2.0」絡みの特集を組んだ。週刊ダイヤモンド週刊エコノミスト週刊東洋経済などなど。こんな一般ビジネス誌までもWeb2.0を語り始めることに個人的にはどこか違和感を感じつつも、この次世代のウェブに対する期待感が、一部のギークの間だけではなく、世の中全体に広まりつつあるとだけは言えるだろう。

この流れに便乗して、ウェブ以外のいろんな分野でも「2.0」が使われるようになった。こうなったら、そろそろ僕も「大学研究者2.0」を語らないといけないのかなぁ。まあ、それはまたの機会に。

今回採り上げるのは、「新聞2.0」。全国紙のひとつである産経新聞が、本体のウェブサイトとは別に、Web2.0を強く意識したニュースサイト「iza!(イザ)」を立ち上げた。

iza.jpg

要は、ニュースとブログの統合サイトなのだが、やはり旧来型マスメディアの本丸である全国紙が本腰を入れてウェブを活用としている姿勢はいくら評価してもおつりがくると僕は思う。

このiza!の登場の背景を以下の3本の記事はとてもうまく整理してくれている。ちなみに、担当記者はかのIT戦士・岡田有花女史。この人は本当に良い記事を書く。

「トラックバックもニュースの一部」——産経「iza!」

新聞に生き残りの道はあるか 新聞社サイト、アクセス伸びず

ネットと新聞、読まれる記事は「驚くほど違う」

この2番目の記事は大変興味深い。ネット人口がこの5年で5倍になったのに、新聞社のサイトの訪問者数は極めて緩慢な伸びしか見せていない。僕のような「ネット以前」の時代を知っている世代は、いまでもほぼ毎日各紙のサイトを見に行くが、「ネット以後」の世代の新聞離れは極めて深刻なレベルだと思われる。うちの学生でも、定期的に見ているニュースはなんとmixiニュースだけという者もいる。

こうした新聞離れに対して、大手新聞社はどれほどの危機感を持っているのだろうか。「持っているはずだ」という期待などではなく、「持っていて欲しい」という願望すら虚しくなるというが実態だ。記事の中で、萩原雅之氏@ネットレイティングスは「新聞社が編集するニュースパッケージの需要が落ちている」という言葉が引用されているが、まさにその通りだろう。

そんな中、「新聞の枠を取っ払ったサイト」を目指しスタートしたのが産経のiza!である。全記事にトラックバック可能、60名以上の記者やスタッフがブログを公開し、ユーザー視点での記事構成を行うことで、既存の新聞社サイトの枠を大きく超えようとしている。特に、「記者ブログ」は目玉だろう。古森義久氏などの産経の大物ジャーナリストがブログを書くというのは、やはり何か新しい時代の流れを感じるのは僕だけだろうか。

ベータ版の公開から1ヶ月ほど経ち、僕もこのiza!をほぼ日常的に使ってみた。一般的な新聞社のサイトと比べると、若者や女性が関心を持ちそうなホットトピックや時事ニュースが上位に表示され、誤解を恐れずに言えば、「昼間のワイドショー的」な記事構成になっている。これはこれで面白い。僕は、同じ産経の芸能・スポーツ系サイトのZAKZAKの愛読者なのだが、iza!はZAKZAKほど芸能・スポーツ一色ではないので、僕のような芸能ネタ好きのミーハーな者だけでなく、その他大勢の人にもiza!は取っ付きやすい構成になっているのではないかと思う。

全記事でトラックバックを受け付けるというのも、大手新聞社が運営するサイトということを考えれば英断と言って良いだろう。これまでにも、CNETのように記事にフリーにトラックバックを打てるニュースサイトはいくつも存在したが、大手新聞社にとって一番遠いところにあると思われたConsumer Generated Media(CGM)の価値観や機能を彼らが取り入れたのは画期的である(実際、このエントリーもiza!内のこの記事にトラックバックを打っている)。

しかし、僕としてはどうしても気になり、また口惜しく感じるのが、従来の紙ベースの産経新聞との連携の貧弱さだ。

正直言って、ブログを活用したニュースサイトにはなんの新規性も技術的独自性もない。ニュースソースの供給を確保すれば、どの企業でも始められるサービスである。記事構成のバッケージングによる差別化も良いのだが、その差別化競争には明確な競争軸がないことに加え、従来の産経新聞のイメージを否応無く背負ってしまうことが足枷になりかねない。

では、iza!がYahoo!トピックスやGoogleニュースやmixiニュースに対抗するためにはどうすれば良いかということを考えれば、競合には無いリソースを使うという当たり前の戦略がすぐに思い浮かぶ。すなわち、産経新聞本体との連携である。

全国紙5紙のなかでは発行部数が一番少ないとは言え、それでも産経新聞は220万部を発行するメジャー紙である。依然としてネット発祥の多くのニュースサイトがリーチしたくてもリーチできない生活者層を確実に押さえているのである。この紙ベースの新聞とネットベースのニュースサイトとの連携は双方にとって新しい競争力になり得る。

実際のところ、産経新聞は毎週水曜日の朝刊に「iza paper」という特集ページを1ページ全面で用意して、iza!の記事や特集内容を紹介している。ただ、ここで紹介されているのは、iza!の記事やブログエントリーの「焼き直し」でしかなく、紙⇔ネットの連携を意識したつくりにはまったくなっていない。

このようなサイトの内容を採り上げる特集を全面で週1回用意したというだけでも、全国紙としては画期的なのかもしれない。しかし、いくら「新聞2.0」を標榜しても、リアルの新聞とネットのサイトがこの程度の連携しかできないというは片手落ちではないだろうか。しかも、それこそが他のニュースサイトにできないことだというのに。

もちろん、「新聞2.0」は敢えてリアルの新聞との連動は目指さないというのも一つの方向性ではある。しかし、その戦略を全国紙を発行する新聞社が採るのであれば、ネット・ネイティブのYahoo!トピックスやGoogleニュースとの差別化競争は極めて厳しいものになるだろう。さらに言えば、ネットのニュースサイトの積極拡充はカニバリゼーションを引き起こしかねず、リアルの新聞を有するというリソースは逆に大きな足枷となる。

ただ、旧来のメディアの価値観に縛られたリアルの新聞と、Web2.0を目指すニュースサイトが、いきなりガッツリ連動し始めるというのも現実味のない話だろう。僕もそんなに急速な変革を期待しているわけではない。しかし、明らかなのは、いくら「新聞2.0」を目指そうが、それがネットの世界に閉じてしまっている限り、本当の意味での「新聞2.0」は実現できないということである。

繰り返しになるが、今回紹介した産経のiza!に関して、僕はとても肯定的な評価をしている。ここまで辿り着くだけでも、社内的には様々な障害を乗り越える必要があっただろう。スタートを切ったこと、そのことだけでも十分に賞賛に値する。

だが、「新聞2.0」を目指すとまで言うのであれば、ブログやらトラックバックやら、サイト内の工夫だけでなく、本体の産経新聞まで巻き込んだ、大きなリアルとネットの連携のなかで「新聞2.0」を語って欲しい。なぜならば、本当に変わらなければいけないのは、本体のほうなのだから。

今そこまで求めるのは、欲張りな注文だろうか。

Posted by MK @ 06:46 PM
Category : E-biz news



コメント

- - - - - - - - - -

クリステンセンの本にあった、disruptive innovationが失敗しやすい?、する組織構造だと思うんですが・・・。

利益率の低い方から高いほうへのカニバリゼーションは有りですが、
この場合、現状では逆です。それをこれから引っくり返す企画が有るのかを楽しみにしてます。

さて、マスメディアの本質は真実性(意見ではない)だと思う。
結局、iza.netが提供出来るのは裏捕りされた事実で、
各ブログは一意見の集合体というカタチに帰結するのでは無かろうか。

この場合、2chとの差別化を如何に図るかという問題となるだろう。
匿名性を排除する事は、意見量の低下を招き、
逆に質は上がるのかもしれない。
Mixiもそうだが、このアンビバレントな関係を旨く処理して欲しい。

Posted by: ふち : July 16, 2006 01:01 AM

- - - - - - - - - -

> ふっちー
> さて、マスメディアの本質は真実性(意見ではない)だと思う。

ここらへん、難しい問題ですよね。そもそも「メディア」とは何かというお話から始めないといけないですから。僕は基本的にメディアの無謬性にはかなり懐疑的ですねぇ。

それと、匿名性の問題も重要ですね。ネット上の不特定多数のコミュニケーションを健全なかたちで導くには、匿名性を少なくしても、発言の量と質を減らさない仕組みが必要なんですが、そこがまた難しいところでもあるんですよね。

Posted by: kakihara : July 16, 2006 11:28 AM


 
     

© Masao Kakihara 2003-2007
All rights reserved.