|
September 24, 2006
『高速消費経済から「文化」は生まれるか - 東京カワイイ★ウォーズ』
久しぶりに刺激的なNHKスペシャルを見た。つい先ほどOAされていたNHKスペシャル「東京カワイイ★ウォーズ」である。僕はただ新聞のテレビ番組欄に載っていた「エビちゃんの一言が社運を握る!」というコピーに引かれてミーハー的に見ようと思っただけなのだが、予想外に充実した内容に嬉しい驚き。さすがはNHKスペシャル。 製品の品質やブランドのネームバリューより、「かわいい」と感じたものをその場で消費するようになった女の子たち。そんな女の子たちが消費者代表となったファッション業界では、いま、長年の作り方や売り方を根本から問い直すような変革が始まっている。アパレルのプロを排除して企画されるデザイン。年々短くなる流行サイクルに対応するための超ハイスピード生産。実際の店舗を持たず、24時間女の子の消費をキャッチするネット販売の出現…。こうした動きに対応できなければ、たとえ老舗といえども生き残りは困難。数々のアパレルの名門が、いま女の子たちの「かわいい」という評価を求め始めた。 番組の内容のコアは、現代日本の若い女性が追い求める日常感あふれるファッション「リアルクローズ(real clothes)」と、パリに代表される欧米の長いファッションの歴史をもとに日本でも育まれてきた「モードファッション」の鮮烈な対比である。番組での描かれ方としては、今まさにダイナミックに躍動する前者と、それに脅威を感じ時代とのギャップに苦悩する後者という対比である。 渋谷109、エビちゃん、東京ガールズコレクション。これらに共通するキーワードは「カワイイ」。このマジックワードが徐々に現代の女の子文化の中心に据えられるようになったのは90年代後半くらいからだろうか。いまの10代・20代女性向けファッション業界はこの「カワイイ!!」という声をゲットするために日々様々な努力をしている。この努力が凄まじい。 番組で取り上げられていたのは、渋谷109内のアパレルショップの競争である。週単位で店頭の商品をどんどん入れ替えて、消費意欲満点の若い女性を常に飽きさせないようにする。そのために常に新しい商品の企画と開発をものすごいスピードで行っている。商品の企画から製造を経て店頭に並ぶまでなんと2週間。しかも、商品の企画やデザインは専門のデザイナーではなくギャルというお店もある(といっても普通のギャルではないが)。 よそ行きの気取ったファッションではなく、普通の女の子の日常をストレートに表現したファッション。それはいま「リアルクローズ」と呼ばれ、注目を集めている。若い女性に絶大な人気を誇るケータイサイト「girlswalker.com」を運営するゼイヴェルが主催する巨大ファッションイベント「東京ガールズコレクション」。つい先日9/3(日)に代々木体育館で2万人の女の子たちを集めて盛大に開催された。これはまさに「リアルクローズの祭典」だ。 エビちゃんをはじめとした女の子たちの憧れのモデルたちが自分たちでもちょっと背伸びすれば着られそうなカワイイ服を着て颯爽とステージを歩く。その姿はリアルタイムで続々とサイトで紹介される。そして、観客席の女の子たちはその場でケータイからイベントのサイトにアクセスして、ステージのモデルたちが着ていた服をその場ですぐに買っていく。イベント当日たった1日でのケータイサイトでの売り上げは2000万円を超えたそうだ。 若い女の子たちのなかでいま何が「カワイイ」かを肌で感じ、それを素早く具現化し、すぐに世の中に発信していく。現代の若い女性向けのファッションビジネスは、このスピード感が無ければ生き残りは難しい世界になってしまったようだ。 その一方で、これまで日本のファッション業界を支えてきた老舗の企業やブランドは苦戦を強いられている。特に、有名デザイナーが前面に立ってショーやコレクションで最先端のファッションを発表していく「モードファッション」は、時代の流れとの不調和を切実に感じているようだ。 パリ、ニューヨーク、ミラノ、ロンドン、東京が世界の五大プレタポルテ・コレクションだが、ここで発表される有名ブランドのファッションはまさに現代のファッションの「モード」を作ろうとする。素材やカラーのトレンドチェックから始まり、実際のデザイン、コレクションでの発表、そして商品化まで、ざっと1〜2年かかるそうだ。この時間軸のなかでデザイナーは腕を振るい芸術としてのファッションを作り上げてきた。 しかし、このゆったりとした時間軸が上記したような現代の若い女の子たちの感覚にはまったく着いていけないのはあまりに明らかである。有名ブランドであることや個性的なデザインであることより、女の子たちが素直に等身大の「カワイイ」を感じられるものが売れる。そして、その「カワイイ」は日々刻々と変化していく。 今月の「リアルクローズの祭典」と同時期に、実はもうひとつ大きなファッションイベントが行われていた。官民が一体となって日本のファッション・繊維業界を盛り上げるべく開かれた「日本ファッション・ウィーク」である。20年続けられてきた東京コレクションもこれに拡大して引き継がれ、まさに「モードファッションの祭典」となった。しかし、注目のファッションショーはバイヤーやジャーナリストなど関係者のみのクローズドイベントで、2万人の一般の女の子たちを集めたもう一方の祭典とは対照的だ。 コシノヒロコ氏は日本を代表する世界的ファッションデザイナーである。その彼女のインタビューが番組であった。そこで彼女は、「カワイイ」というキーワードで描かれる現代の高速ファッション文化を否定こそしなかったが、少なからず苦々しく思っているようだった。録画していなかったのでコメントの詳細はうろ覚えなのだが、「流行りを追いかけ次々とコピーを生み出していくファッションは、いまのビジネスとしては成功しているが、長い視点でファッションという文化やビジネスを見た場合、長続きしないだろう」というような趣旨のことを述べていた。 「日本のオリジナルを作りたい」と40年以上日本のファッション界を牽引してきた実績の上で語る言葉には間違いなく重みはある。ただ、10代・20代の女の子マーケットに限って当てはめてみれば、この彼女の言葉はたちまち空虚なものになってしまう。 確かに有名デザイナーが華やかに創り上げるプレタポルテ・コレクションがファッションを牽引してきた時代はあった。しかし、ファッションが芸術性、作品性を追い求めるようになり、それを駆り立てるコレクションの制度が出来上がっていった過程で、街の女の子たちの素朴な欲求はどんどん忘れ去られていったのかもしれない。 番組のなかで、「日本ファッション・ウィーク」の実行委員でイッセイ・ミヤケ社長の太田伸之氏が、「東京ガールズコレクション」を主催するゼイヴェルの社長・大浜史太郎氏にアプローチし、今の女の子たちを熱狂させる秘訣や仕組みを少しでも学ぼうとする姿が描かれていた。太田氏は実際に「東京ガールズコレクション」のイベント会場に足を運び、観客席からこのイベントの熱気を感じようとする姿には、今のモードファッション界に対する彼の危機感がまざまざと現れていた。 番組制作の方向性としては、現代の「カワイイ」追求型ファッションビジネスをポジティブに描き、従来のモードファッションビジネスの時代についていけない姿を多少ネガティブに描こうとする意図が見えたのだが、この高速消費経済のなかで繰り広げられる「カワイイ★ウォーズ」の行く末には、ファッション業界の明るい未来が待っているのだろうか。 街中には「エビちゃん Wannabe」が大量にあふれ、ファッション雑誌片手にケータイで服を買う女の子が不思議でない今の世の中。目紛しく移り変わるファッションのトレンドに追い立てられるように服を買い続ける女の子たちには、まさにファッションそのものが「消尽」されていくかのようである。コシノヒロコ氏が抱く疑念もここにあるのだろう。 現代の若い女性のファッション消費は、大きなファッションの芸術性や作品性は背後に押しやられ、「カワイイ」という記号のもとで、個人それぞれが小さな物語を形成するのみである。東浩紀氏が言うところの「データベース消費」の図式にとてもよく当てはまる、こうした刹那の時間軸のもとファッションを高速に消費する現代の女の子の生活のなかで、「意味」を与えてくれるのは「表層の小さな物語=カワイイ!という感覚」だけなのだろう。 ファッションのことについてはまったくの素人の僕ではあるが、ファッションは「アート」と「ビジネス」の間の緊張感のなかで生まれることではないかと勝手に考えている。文化性と経済合理性の相克とも言ってもよいかもしれない。コインの両面のようで、片方を見ようとすればもう片方が見えなくなってしまう。しかし、コインには表裏があり、どちらか一方ではない。 経済合理性の面では、「カワイイ★ウォーズ」は現代のファッションを取り巻く社会環境を鑑みればひとつの解答であることは間違いない。ただ、この高速消費経済が、これまでにない新しいファッションの「文化圏」を作ってくれるのだろうか。エビちゃんもいつかは消費され尽くす。問題は、その後に第二のエビちゃん、第三のエビちゃんがしっかりと生まれてこの高速回転する経済圏を支えつつ、これまでのファッション業界にはない新たなファッションの価値や意味などを提示できるのかということである。 はっきりしているのは、ファッションの文化子=ミームが生成される仕組みは明らかに大きく変わったということだ。これまでのファッションのプロ集団によって創られてきたファッションの様々な文化子は、現代の女の子たちのハートには徐々に響きにくくなった。「カワイイ」という得体のしれない目標に向かって、ファッション業界は今後しばらくは様々な試行錯誤が繰り返されるのだと思う。 僕もミーハー的ファッションウォッチャーとして眺めていきたい。 Posted by MK @ 10:38 PMCategory : Miscellaneous - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - そもそも、“アート”と“ビジネス”というのは、完全にとは言わないまでも、ほぼトレードオフに近い関係にあるのではないかと。 だから僕はビジネス性をかなぐり捨てて、アートを追求する姿勢が好きだったりします。 Posted by: Yoshinaga : September 26, 2006 11:19 PM- - - - - - - - - - ついでに、そのアート性とビジネス性を両立してるプロダクトこそクリエーターが目指すべきものであり、コンシューマーが求めるべきものなんでしょうね。追記。 Posted by: yoshinaga : September 26, 2006 11:23 PM- - - - - - - - - - こんにちは☆ そのNHKスペシャル見たかったです>_<! でも私少し洋服の販売員してたから知ってるんですけど、私たち20代前半の女のコが「カワイイ」って言って一目見ただけでとびついちゃって携帯電話で服買っちゃってますけど、それを仕掛けてるアパレルのメーカーはその年のパリコレ参考にしてデザインおこしてるし、売る側の百貨店とかの販売研修でもその年のパリコレとかのトレンドを研究してセールストークに使いましょう!みたいなことしてるんで、結局はファッションはオートクチュールなしでは始まらない、と私は思います^^;☆ 私たちの若い世代の女のコが次々に変わる「カワイイ」にファッション業界が振り回されているようにも見えますが、私たちの購買意欲を刺激して消費を生み出すアパレルメーカーの戦略にのせられているのは私たち女のコのほうなんじゃないかな、と思います。 私もど素人なので大きなことは言えませんが、私はそう思いました☆ Posted by: 三ちゃん☆ : September 27, 2006 06:30 PM- - - - - - - - - - >コメント頂きました皆様 コメントありがとうございます。 ほんとこのNスペは必見ものだと思います。まだ見ていないYoshinagaさんや三ちゃん☆さんは、ぜひどこかで映像を手に入れてでも見た方がよいです。 やっぱりオドロキは、いまのトレンドの変化のスピードの速さですね。怒濤の情報が世の中を駆け巡り、そのひとつひとつをほとんど噛み締めないまま、次の次の刺激を追い求めて、流れ流されていく。そんな感覚が、僕みたいな年代の人間ですら感じます。 いまの若い人たちは、この「流されている感覚」が当たり前になっているのでしょう。良い悪いでなく。 Posted by: kakihara : September 28, 2006 11:35 AM- - - - - - - - - - 智恵も見たよ(^^) - - - - - - - - - - おひさしぶりです。 僕も一応アパレル業界で働く身分として深く考えさせられます。実際に競合他社のT社はこのように早いタームで商品開発していますし、働いていて実感しています。 しかし、現状僕がこのアパレル業界で働く限りでは、 もしかしたら、うちも関係者だけの展示会から、今後消費者むけの展示会(ファッションショー)をするようになるかもしれませんが・・。 まぁ、うちは特殊な商材なので少し状況が違うかもしれませんが。。。 時代の流れについていきながらも、何が良いのかを常に考えていかないといけないなぁって思いました。
- - - - - - - - - - 先を読めず可能性を潰すオヤジ達 |
||
© Masao Kakihara 2003-2007
All rights reserved.
はじめまして。
僕もこの番組を見て衝撃を受けました。
一週間前に「カワイイ★」と流行っていたものが、次に日には見向きもされないという消費のスピードは、もう後戻りすることのない流れなのでしょうか?
消費する側と供給する側がこのスピード感覚に特に違和感を覚えていないとしたら、とてつもない感覚ですよね。。
稚拙ですが僕も東京カワイイ★ウォーズについて記事を書いたのでTBさせていただきましたm(__)m
Posted by: ぽむ吉 : September 26, 2006 10:45 PM