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January 10, 2007
『インターフェースのイノベーションはキャズムを乗り越えられるか:Apple iPhone』
いろんな意味でものすごいモノが登場してしまった。Appleが昨日Macworld Expoで発表したスマートフォン「iPhone」である。 「3.5インチタッチパネル搭載の『iPhone』、6月に発売」by ITmedia 「ついに発表--アップルの携帯端末『iPhone』とは」by CNET Japan 「『iPhone』で携帯電話市場に殴り込み 米アップル」by iZa! ここ1年ほど出る出ると言われ続けていたiPhoneがとうとう発表されたわけである。通話+ネット+音楽。機能的には恐らく現段階の携帯デバイスを開発するにあたり、想定し得るほぼすべての要素を取り入れたものだろう。その意味で、想定の範囲内ではあるのだが、しかしながら、それでも僕らの多くが裏をかかれた製品でもあると思う。 それは、やはりアップルのお家芸ともいえるインターフェースのイノベーションが、ここまでストレートに現実化・製品化されるとは思っていた人は少なかったのではないだろうか。少なくとも、僕はそうだった。 携帯デバイスの開発にあたり常にボトルネックになってきたのは、インターフェースとバッテリーである。 できるだけ小さな筐体に容易且つ快適な使用感を実現するインターフェースをどのように実現するか、そしてその製品のバッテリーがどれほど長持ちするのか、この2点を同時実現する製品を具体化させるのがどれほど難しいことか。 特に、インターフェースは生身の僕ら人間と冷たい機械を繋ぐ架け橋である点で極めて重要である。別の言葉で言えば、リアルとバーチャル、デジタルとアナログを繋ぐ結節点である。コンピューティング・デバイスにおけるインターフェースのイノベーションの速度は、極めて緩慢だ。PCのインターフェースがQWERTY型のキーボードから一歩も進化していないことからも、その深刻さは明らかである。 ここで、AppleはGUI (Graphic User Interface)とマウスという画期的なインターフェースを採用したMacintoshというPCを世に出し、コンピューティング・デバイスのインターフェースの革命を起こした。その後、Microsoftが追従してWindowsにGUIとマウスを採用したのは言うまでもない。 そして、先進国では1人1台に近いレベルで世の中に広く浸透した携帯電話に目を向ければ、まさにこのインターフェースのイノベーションが待たれていたわけである。今回のSteve Jobsの基調講演のなかで使われた2枚のスライドがうまくこのことを示してくれている(写真はLingrチャットルームから)。
そこで、Appleはマウス、iPodと段階的に進めてきたコンピューティング・デバイスのインターフェースの設計ノウハウをもとに、今回のiPhoneのインターフェースを開発したわけである。もちろん僕もまだ実機は見ても触れてもいないが、写真で見るだけでも、そのインターフェースの設計の細かさ(例えば、筐体を横にすれば自動的に表示を横向きに変更する点など)は容易に見て取れる。 こうしたインターフェース設計のノウハウは、3〜5年程度の単発の製品開発のスパンでは決して蓄積されないもので、20年以上にわたり革新的なコンピューティング・デバイスのインターフェースを企画・設計・開発を続けてきたAppleだからこそ実現できたものであることは間違いない。 某家電メーカーの中の人が今回のiPhoneの発表を見て「全世界の家電メーカーが力を合わせてもApple1社に勝てなかった」と言うのも実感として非常によく分かる。MacintoshでPCのインターフェース革命を起こし、iPodでデジタル音楽プレーヤーのインターフェース革命を起こしたAppleは、いままさに携帯デバイスのインターフェース革命を起こそうとしている。 ・・・・・・・・・・ と、華々しくApple賛美をしてこのエントリーを締めることもできるのだが、もう少し書いてみたい。といのも、携帯デバイスとしてのiPhoneの革新性は素晴らしいの一言ではあるのだが、一方でこのiPhoneのビジネス的な成否を見通せば、それほど楽観的にはなれないのではないかと個人的には思っているからだ。 Appleを代表するイノベーティブな製品であるMacintoshとiPodを比較して、世の中への普及という点で見れば、前者は競合(Wintel)に対して極めて劣勢であるが、後者はデジタル音楽プレーヤー市場において圧倒的なシェアを確保し続けている。 この違いはどこから生まれたのかと言えば、いくつかの仮説が考えられるが、ひとつあると僕が思っているのは、「ネットワーク外部性」の違いである。 ネットワーク外部性とは、あるサービスの利用者が増えれば増えるほど、1ユーザー当たりの便益が増加するということである。つまり、ユーザーが増えることでますますユーザーが増えていくという正のフィードバックが生まれる状態のことである(参考資料)。 この点で、PCのOSという分野はネットワーク外部性があるが、音楽再生プレーヤーの分野にはネットワーク外部性はほぼない。つまり、ひとつの仮説としては、Appleの革新的なインターフェースを生み出す競争力は、ネットワーク外部性の低い製品領域では圧倒的な強みとなるが、ネットワーク外部性の高い製品領域では支配的なシェアを獲得するような競争力とはなり得ないということである。 AppleがWintelとの競争のなかで学んだ教訓としては、ネットワーク外部性の高い製品領域においては、素晴らしいインターフェースを持つ革新的製品が必ずしも一番世の中に受け入れられる製品になるとは限らないということである。後発であろうとも、類似のインターフェースを持つPCとOSが市場を支配してしまったのである。 この点に関して、Appleは十分理解しているとも思える。AppleはMacintoshのハードとOSをアンバンドルさせずに一体として市場投入し続けてきているが、ハードからアンバルドルさせてOS単体で市場投入したWindowsのほうが後発であるにもかかわらず急速に支配的シェアを獲得してしまった。これはもちろん結果論ではあるが、敢えてOS市場のネットワーク外部性を無視してまでハードとOSを一体化させたAppleは、その必然的な帰結として、世の中全体で見れば1割にも満たない一部のプロフェッショナルとデザイン・センシティブな人たちにのみ受けれられたものに留まっている。 いや、一般受けしないコアな点にこそAppleの素晴らしさがあるんじゃないか、と思う人も少なくないだろう。また、Apple自身もシェア拡大はそれほど目指していないんだ、という議論もあるだろう。まあ、この望ましいAppleのすがたについて議論しはじめると切りがないので止めておくが、いま議論するのはiPhoneのビジネス的成否である。 言わずもがな、携帯電話サービスというのはネットワーク外部性がある領域である。携帯端末としての単なるハードとして完結する製品ではまったくなく、携帯電話ネットワークと接続するために携帯電話キャリアのサービス契約が必要不可欠な製品である。端末として革新的なインターフェースが、キャリア乗り換えの強いインセンティブになるのかどうか、非常に判断が難しいところだろう。 また、iPodの爆発的普及は、これまでデジタル音楽プレーヤーを使ったことのなかった人たちが1台目としてiPodを買うというケースが多かったからだと思われるが、既に1人1台に近いレベルで普及した携帯電話市場において、iPhoneのインターフェースの革新性が多くのユーザーにとって製品買い替えの強いインセンティブになるのかも微妙なところだろう。 さらに言えば、携帯先進国としての日本における現状として、携帯電話とデジタル音楽プレーヤーの一体化にどれほどのニーズがあるのかも検証が必要だろう。上記したように、インターフェースの問題と並ぶ携帯デバイスのもう一つの問題がバッテリーである。通話機能と音楽再生機能をバンドルすれば、バッテリーの持ちは一気に下がるのは当然で、それを嫌って、最近の携帯電話のほぼ全てに音楽再生機能が搭載されているにもかかわらず、その機能をほとんど使わないユーザーは少なくないと思われる(統計データはないが、僕の周りの実感として)。 というわけで、革新的インターフェースを持つMacintoshがPCやOSの市場における「キャズム」を乗り越えられなかったように、同じく革新的インターフェースを持つiPhoneが同じ状況にならない保証はない。双方の市場に共通するのは、ネットワーク外部性である。言い換えれば、ネットワーク外部性の低いデジタル音楽プレーヤー市場で成功したiPodと同じアプローチ、すなわちインターフェースのイノベーションでユーザーを惹き付けるアプローチは、iPhoneのビジネス的成功を約束するわけではないということだ。 Appleは広告マーケティング的には非常に優れた企業であると良く言われる。MacintoshやiPodの広告キャンペーンはそれだけで多くの人の心を惹き付けてきた。ブランドとしてのMacやiPodの育成もなかなか巧くいっていると言える。しかし、上述してきたような市場のネットワーク外部性をふまえた事業戦略の展開では、これまでAppleはお世辞にも巧くやってきたとは言えない。 では、ネットワーク外部性をふまえたiPhoneの事業展開を検討すれば、シンプルにユーザーベースを増やす方法として、iPhoneを提供するキャリアの数を増やすということが考えられる。今回Appleはあくまで端末を提供するハードメーカーであって、携帯電話サービスまでは提供しない。そうなると、できるだけ大きなユーザーベースを保有する複数のキャリアとの連携が欠かせない。 しかし、今回の発表ではiPhoneが使えるキャリアはCingular Wirelessとの単独契約になっているようだCingularは5000万ユーザーを保有する北米最大手キャリア(シェア31%、2005年)だが、ほぼ同シェアのキャリアとしてVerizonとSprintもある。iPodとiTMSの成功は、幅広い音楽レーベルとの契約により実現した提供楽曲数の多さにあったわけだが、今回のiPhoneの場合は、Cingularとの単独契約によって同様の提携展開は不可能である。この点でも、Apple単独の事業展開だけではどうしようもないユーザーベースの壁があるわけである。 上掲の記事で、2008年には1年間で1000万台のiPhoneが売れるとJobsは見ているそうだが、これは世界の携帯電話市場シェアの約1%だそうだ。1%・・・。もとの市場規模が大きいだけに、単なるシェアの数字に拘り過ぎるのは良くない。シェアは低くても、革新的な機能とサービスで、それを求めるユーザーに確実に受け入れられて、十分な利益が出せれば良いという考えもある(特に投資家サイドから)。 まとめるとすれば、僕の今のところの見立てでは、AppleのiPhone事業の発展可能性としては、iPodのような爆発的な普及と成功を収めるのではなく、Macintoshと同じようなイノベーター層にのみ受け入れられるデバイスに留まる可能性が高いのではないかと考えている。もちろん、こうした僕の見立てを大きく裏切られるような事業展開をAppleがやってくれることを期待してやまないわけであるが。 企業名をApple Computer Inc.からApple Inc.に変えて、本格的に総合家電メーカーへの道を歩もうとしているApple。新生Appleの真価は、iPhoneの成否によって問われると言っても言い過ぎではないだろう。Appleの今後の動向からは目を離せない。 ちなみに、iPhoneの国内での販売の2008年になるそうだが、どこのキャリアから出るんだろう。ソフトバンクの孫さんがこのiPhoneの発表の場にいたそうだが、ということは・・・。 まあ、僕個人としては、どのキャリアから出ようがiPhoneが国内販売された時点でそのキャリアに躊躇無く乗り換えますが(笑)。 Posted by MK @ 10:32 PMCategory : E-biz news - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - これはこれは、ご無沙汰しております。 ご指摘ありがとうございます。しかも、Mobileではなく、Wirelessですね。あー恥ずかし。 取り急ぎお礼まで。 Posted by: kakihara : January 13, 2007 11:57 PM |
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Singular Mobile(誤)
Posted by: イサカから : January 13, 2007 11:43 PMCingular Mobile(正)
ですね。Cingularユーザーより。